哲学者ショーペンハウエルが語った「ヤマアラシのジレンマ」という寓話があります。
2匹のヤマアラシが冬の寒さに耐えかねて、 互いに暖めあおうとして身を寄せ合いました。
しかし、あまりに近く身を寄せあったため、2匹のヤマアラシは自分の体に生えている針によって互いに相手を傷つけてしまいました。
その痛みから2匹のヤマアラシは相手から離れたのですが、 今度はまた寒くてたまらなくなりました。
そこで、ふたたび2匹のヤマアラシは身を寄せあいました。 するとまた互いに相手を傷つけてしまうのです・・・。
こうして2匹のヤマアラシは、離れたり近づいたりを繰り返し、ジレンマに陥っている・・・という話です。
「自己の自立」と「相手との一体感」という2つの欲求によるジレンマを象徴していると言われます。
(なお、実際のヤマアラシは針のない頭部を寄せ合って体温を保ち、睡眠をとっているそうです。)
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ビジネスでも、お店側がお客さまに近寄りすぎるとお客さんのウォンツ(本当の欲求)が見えなくなります。
たとえば「どうして当社の商品を買っていただけたのでしょうか?」と聞いたとします。
するとたいていの場合、お客さまはこう答えます。
「安かったから」・・・あるいは「店員さんの対応が良かったから」・・・などです。
ところがそれはつまり、お客さまはニーズ(表面的な購入喚起の理由)を答えているだけです。
お客さまの本当の購買動機を知りたければ「当社の商品を買う前にどんなことに困っておられましたか?」とか、「当社の商品を購入してどんな満足感を得ようとされたのですか?」と質問自体を変える必要があります。
適切な回答は適切な質問によってのみ導かれます。
お客さまのニーズを満たすのではなくて、お客さまのウォンツを詳(つまび)らかにして再現性を図ることがビジネスでは重要です。
ヤマアラシのジレンマに陥ることがないように表面的・目先的ではなく、本質的・中長期的視点で接することが大事ですね。