サントリーの創業社長「鳥井信次郎」の実の息子である敬三氏は母方の姓を継いで「佐治敬三」と名乗っていましたが、れっきとしたサントリー2代目社長です(ちなみにACジャパンの創設者でもあり、今日が命日です)。
初代の信次郎氏がワインを大ヒットさせたのに対して、敬三氏は「トリスブーム」を世にもたらしました(トリスはウイスキーの商品名)。
当時、まだ専務だった敬三氏の宣伝戦略は「文化を売る」ということにあった・・・と言われています。
敬三氏は、サントリーのウイスキー「トリス」という商品そのものを販売することよりも、それに先駆けて「洋酒を飲む文化」を日本社会に浸透させていこう・・・としたわけです。
ここが素晴らしいところだと思います。
将を射んとすればまず馬を射よ・・・ではありませんが、ウイスキーを売るために「洋酒を飲むという文化を創り出そう」・・・としたわけです。
この戦略は結局10年の歳月をかけて実現したようです。
その功績をもってやがて敬三氏は専務から社長に就任し、その後ビール業界へと参入していきます。
ビール業界と言えば、当時すでにキリン、アサヒ、サッポロの3社による寡占状態だったようですが、そこへ果敢に進出していったわけです。
今ではこれら4社での寡占状態になっていますから、その英断もやはり素晴らしかったのだと思います。
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商品を売るために、「その商品が属する分野、業界を広める、そうした文化を新たに創り出し、社会的認知を得る」・・・という手法は古くて新しい手法です。
時間も手間もかかりますが、社会的意義が大きくあります。ビジネス的には先行者利益を得やすくなります。
その代わり、失敗するリスクも大きく、もし失敗したら被る代償も甚大になります。
でも、それを理解したうえであえてやってみる、あえてトライして新たな時代を切り拓く・・・という姿勢は本当に立派だと思います。
今の世の中に当たり前に存在しているコンビニ、スマホ、パソコン・・・なども、かつてはそうした「商品ではなく文化を売る」ことを手掛けてきた先人たちの苦労と実践があったからこそ・・・です。
電鉄会社が「鉄道を敷くためには鉄道を敷くことを目的とするのではなく、そこに居住地、百貨店、スーパー、マンション、戸建てなどの人が生活する文化を築くことが重要だ・・・」という観点からスタートし、時間をかけて文化を醸成してきたのと似ていると思います。
この考え方、発想法を今現在持っている経営者者がどれだけいるのかわかりませんが、そうした経営戦略を大切にしてこれからの世の中を変革していく人が増えるとますます世の中は発展していくと思います。